【コラム】公取委は芸能界の闇にメスを入れるのか(望月宣武弁護士)


2017年8月13日

公正取引委員会が芸能界の独占禁止法違反について調査

こんにちは。共同代表理事の望月です。普段は、独占禁止法の研究者集団である「日本経済法学会」、「東アジア経済法学会」、「Asia Competition Association」のメンバーとして独占禁止法を専門分野のひとつとしています。 さて、先月以来、「公正取引委員会(公取委)が芸能界の独占禁止法違反について調査を始めた」という記事が各メディアから出ています。

http://www9.nhk.or.jp/nw9/digest/2017/07/0707.html
http://www.sankei.com/smp/life/news/170723/lif1707230031-s1.html

各社一斉に「闇に包まれた芸能ビジネスに、ついにメスが入るか」と概ね歓迎するトーンで報道しています。のん(能年玲奈)さんや清水富美加さんの事務所とのトラブル、SMAPの解散報道などを見て、「芸能界には外からはよく分からない『暗黙のルール』があるのでは」と思う方も多いでしょう。

8月4日に開催された公取委の検討会

一連の報道の発端となったのは、8月4日に開催された公取委の検討会です。
http://www.jftc.go.jp/houdou/pressrelease/h29/jul/170712.html

では、この公取委の検討会は、芸能界の闇にメスを入れるのでしょうか。検討会の議事録は非公開となっているため、まだ、どのような議論がなされたかは明らかになっていません。 私は、上記の「芸能界の闇にメスが入るか」については、控えめに言って、半分は正しく、半分は期待外れに終わると思っています。

芸能界の問題は?

芸能界の問題として、いくつか例示してみましょう(本当に存在するかはいったん措きます)。
①複数の芸能事務所が協定して、互いに所属タレントの引き抜きを禁止したり、移籍を制限している。
②有力な芸能事務所が、独立したタレントがテレビ出演することを妨害し、タレントは干されている(いわゆる「干される」問題)。
③いくつかの芸能事務所は、タレントが独立しようとしても独立を容易に認めず、ときには多額の違約金などを請求している(いわゆる「辞められない」問題)。
④悪徳な芸能事務所は、所属タレントに不要な美容品を購入させて、利益を上げている(いわゆる「ブラック事務所」問題)。

これら①〜④は全て、独占禁止法上も違法となりうる行為であり、芸能界のとても重要なテーマです。しかし、私は、残念ながら、今回の公取委の検討会が扱うのは①のみと推測しています。検討会では②〜④のような問題は、直接的には扱われない可能性が高いと思います。

検討会の設置の趣旨

そう言える根拠は、公取委の検討会が立ち上がるまでの議論の経緯(公取委は1970年代から法律解釈を固持しており批判を浴びて来ましたが、この法律解釈を変えるかどうかが検討会の最大の論点です)や、検討会の設置の趣旨です(長くなるので今回のコラムでは詳述することを避けます)。これらをきちんと把握するとそう読めるのですが、独占禁止法というマイナーで馴染みのない法律のため、メディアもまだ理解が追いついていないのではないかと思わざるを得ません。

とはいえ、芸能界の深い闇は、むしろ②〜④にあると言えるでしょう。繰り返しになりますが、②〜④の行為も独占禁止法違反になる可能性があります。私たち日本エンターテイナーライツ協会は、②〜④の問題も公取委に関心を持ってもらい、検討会でも議論してもらうべく、問題点を整理し、広く発信する活動を行います。

私個人としても、エンターテイメントビジネスと独占禁止法を専門とする弁護士として、引き続き、独占禁止法の観点から芸能界の諸問題に斬り込んで参ります。

共同代表理事 弁護士 望月宣武