【コラム】『芸能プロダクションからの未払報酬がある場合の契約解除』河西邦剛弁護士


2017年6月6日

■芸能プロダクションからの未払報酬がある場合の契約解除
タレントの西山茉希さんが、所属芸能プロダクションから報酬が支払われていなかったという報道がなされています。

https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170606-00010002-jisin-ent

弁護士経験の中で、今まで100を超える芸能プロダクションとタレントとの間の契約書を見るだけでなく、様々な事件の交渉、訴訟を経験してきました。本日は経験に基づき、未払報酬がある場合、契約を途中で解除出来るのかという点について話をしていきたいと思います。

●契約書に記載されていることは全て有効というわけではない
通常、芸能プロダクションとタレントとの間で結ばれる専属マネージメント契約(呼び方は、専属芸術家契約書、芸能契約書等々あります。)には、通常2~3年の契約期間が定められていることから、「契約期間内は途中で辞めることはできない」と思っているタレントさんも少なくありません。
実際、契約書にはそのように記載されているわけで、ひどい場合には途中で辞めた場合の違約金条項まで記載されています。そうすると、当然、「途中で辞めることはできない」と思いがちですが、実はそうではないのです。

「契約書に書いてあることはなんでも有効」というわけではありません。

利息制限法や出資法に違反する高金利が無効になるように、法律や裁判例に反する契約書は簡単にいうと無効になる可能性があります。どの部分が無効になるかはケースバイケースではありますが、各条項が部分的に無効になることもありますし、タレントに一方的に義務を課しているような酷い内容の契約書の場合には全体が無効になるケースすらあります。

●日本には直接的な法律は存在しない
問題は、日本においては、芸能プロダクションとタレントとの間を直接規律する法律が存在していないことにあります。なので、実際の事件では過去の事例における裁判例が、芸能プロダクションとタレントとの契約の有効性無効性を判断するうえで、重要になることになります。

そして、過去の裁判例を見てみると、芸能プロダクションからタレントにきちんと報酬や給与が支払われていない事例においては、タレントからの解除は認められる傾向が強いです。
もっとも、未払報酬がない場合であっても、報酬が不当に低かったり、報酬の明細を出していない場合には同じように解除出来る傾向にあります。 報酬が支払われている場合には解除できないというわけでもありません。

●統一契約書の提案と立法提言
当会においては、達成目標の一つに芸能プロダクションとタレントとの間を対等・公平に規律する新たな法律を提案することにあります。そのための、第一歩として、まずは芸能プロダクション優位の現状の専属マネージメント契約書ではなく、タレントと芸能プロダクションが対等・公平となるような契約書の雛形を作成し、それを浸透させることを目標にしております。

詳しくは改めてコラムに記載していきたいと思います。

共同代表理事 弁護士 河西邦剛