【コラム】『芸能人のメンタルヘルス対策のすすめ』安井飛鳥弁護士


2017年10月23日

共同代表理事の安井です。私は普段、弁護士業の他に社会福祉士、精神保健福祉士として生活や心の悩みに関する相談業務を行っていて、芸能人の方からも心の悩みに関する相談やそこから派生した法律相談を受けることがしばしばあります。

今回は心の悩みの専門家でもある精神保健福祉士の立場から芸能人のメンタルヘルスについてお話したいと思います。

1 精神疾患は身近な存在である

うつ病や依存症、適応障害といった精神疾患についてどのようなイメージを持たれますか。心の弱い人がかかる病気、自分には無縁な特殊な病気といったネガティブなイメージを持たれてはいないでしょうか。日本は諸外国と比較しても精神疾患への理解や取組は遅れていると言われていて実際にそのようなネガティブイメージを持たれている方がまだまだ多いのが実情です。ですが、うつ病は今や4人に1人が一生の内に経験する病気と言われていて、働き盛りの世代の罹患率が年々増加しています。また、依存症は買い物依存症やアルコール依存症、あるいは『ワーカーホリック』と呼ばれる仕事依存症といった様々な形で日常生活上陥りやすい病気です。まず覚えておいてほしいのはストレスの多い現代社会において、うつ病や依存症といった心の病はなんら特殊な病気ではなく身近な存在であるということです。そしてそれは芸能界であっても同様です。

芸能人は日頃から事務所や仕事関係者との人間関係、現在の仕事に対する葛藤、将来への不安といった芸能界特有のストレスに接しています。そうしたストレスが積み重なり人気絶頂の芸能人が突然、体調を崩し活動休止に至ったり、依存症に悩まされたりするようなことも決して珍しい話ではないでしょう。こうした事態を予防・対処していくためにも芸能人のメンタルヘルス対策が重要となってきます。

2 メンタルヘルス対策とはメンタルを強くすること?

メンタルヘルス対策といわれると『自分はメンタルが弱いから・・・』とか『もっとメンタルを強くできれば・・・』と考えることはありませんか。しかし、メンタルヘルス対策をしていくにあたってはそうした考えが危険なのです。

確かに世の中にはメンタルが強いと言われるような人もいます。余談になりますが弁護士も世間的には屈強のメンタルを持っているかのように思われがちです。しかし実は弁護士にはメンタルの悩みを抱えている人が多く、メンタルの悩みが要因で休業や自殺に至る割合も高いのです。メンタルが強いと思われている人も本当は日々メンタルの悩みを抱えているのかもしれません。

そもそもメンタルの悩みを抱えることやメンタルが弱いことは悪いことなのでしょうか。私はメンタルの悩みを抱えることは誰にでも起こりうることであってそれ自体はなんら悪いことではないと考えます。メンタルヘルス対策として大切なのはまず自分自身がメンタルの悩みがあることを自覚して受け入れたうえで、そうした悩みやストレスを他人に開示できるようにしていくこと、そして自分にあった適切な対処方法を身につけていくことです。

3 病気かもしれないと思ったら

日頃からメンタルヘルス対策を意識していても仕事や私生活の様々なストレスが重なれば知らず知らずのうちに心に負担がかかり病気に発展してしまうこともあるでしょう。そうしたときにしてはいけないのは自分だけで病状を判断して対応しようとすることです。素人判断で病状を判断したり、安易に薬で誤魔化そうとして余計に症状を悪化させてしまう例も少なくありません。

インターネット上には精神疾患に関する様々な情報や経験談が飛び交っていますが、不正確、有害な情報も多いです。また精神疾患には症状は似ていても種類によって治療方法が異なるので素人判断は危険です。例えばうつ病と躁うつ病は名前や症状の一部は似通っていますが全く別の種類の病気であり治療方法も全く異なります。

病気かもしれないと思ったら専門家のもとで早期診断と初期治療を正確に行っていく必要があります。精神疾患の診断や治療方針は医師によって見解が別れることもあるので診断内容や治療方法が自分にあっていないと感じたらそのことも相談していくようにしましょう。症状によっては自立支援医療や障害者年金といった福祉制度の利用が可能で、こうした制度を利用することで治療をしながら無理のないペースで仕事を続けていくことができます。

4 芸能界におけるメンタルヘルス対策のすすめ

近年一定規模以上の企業には従業員のストレスチェックが法律上義務付けられるようになりメンタルヘルスケアの専門家配置が進められています。また、より働きやすい職場環境を目指して管理職向けのメンタルヘルス対策に関する社内研修を自主的に実施する企業も増えています。

芸能事務所においてもこうしたメンタルヘルス対策がより活発に行われるようになれば、所属する芸能人の方々のコンディションも安定して、病気の予防はもちろんより良いパフォーマンスの仕事にもつながっていくことでしょう。競争の厳しい芸能界だからこそメンタルヘルス対策の考えが普及していくことが望ましいと考えます。

ERAとしても芸能界のメンタルヘルス対策の普及促進に向けた取組を進めていきたいと思います。また実際に心の悩みを抱えた芸能人の方々が孤立せずに安心して悩みやストレスを開示し合えるような勉強会やコミュニティづくりを進めていきたいと考えています。

5 シンポジウムのお知らせ

12月13日にERA設立後初となる公開シンポジウムを実施します。私は今回シンポジウムの総合プロデューサーとして準備を進めています。自分で言うのもなんですが芸能を扱うERAらしいエンタメ要素盛り沢山の楽しいシンポジウムになる予定です。

参加申込方法等の詳細については近日公開予定です。皆さまぜひご参加ください。
【12/13 日本エンターテイナーライツ協会設立記念シンポジウム】「芸能界に交錯する光と闇」